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奥深き中国拳法の流派(前篇)

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 馴染みのない中国武術の奥深き世界

我々が知っている中国武術と言えば、 

少林寺拳法、酔拳、太極拳くらいでしょうか。香港映画の影響がとても大きいですね。

前回の記事「中国武術の発展とその思想について」では、中国武術の概要についてざっと解説しました。

今回は、具体的にどのような中国武術の流派があり、どのような思想と戦闘スタイルを発展させてきたかを見ていきたいと思います。

数がとても多いので、前編と後編とに分けます。

 

 

1. 査拳(さけん)

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中国の回教族(イスラム教徒)伝統の拳法

査拳の始祖は回教族の査密璽(さみつじ)という人物だと言われています。 

現在でも中国の回教徒(イスラム教徒)が学ぶ武術で、日本でも愛好者が多いようです。

北拳の特色である跳躍と蹴り技を多用し、変化に富む動きが特徴です。

組み手練習の対打は間合いを広く取り、両腕を大きく伸ばして手先で攻守をやり合います。蹴り技は中段蹴りを多用します。

20世紀初頭にこの査拳の達人と言われたのが、回教徒の僧・楊洪修。

武術の指導に熱心だった中華民国の馬良将軍が、形意拳の達人を連れてきて楊洪修と戦わせたところ、楊が勝ったと伝えられています。

 

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2. 八極拳(はっきょくけん)

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一撃が重く早い必殺拳法

八極拳も査拳と同じく回教徒の格闘技。

18世紀に河北省滄県にある孟村という、回教徒の村に住む村人・呉鐘(ごしょう)という人物が考案しました。

その特徴は震脚動作(地面が震えるほどの強い踏み込み)と体勢の急激な移動、その力を利用した強い打撃にあります。 

 正式には「開門八極拳」といい、敵の門(防御)を六大開の技法で突き崩すこと目的とします。そのため接近戦に特化しており、拳による打撃の他、肘打ちや背や肩を使っての攻撃もあります。

八極拳の達人として名高いのが、李書文という人物。

彼は非常に喧嘩っ早い男でしたが、ほとんど負けたことがなく、「猛虎硬爬山(もうここうはざん)」という技一撃で相手を倒してしまったそうです。

 

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蛇足ですが、ゲームのストリートファイターシリーズに登場するキャラクター、ユンとヤンは八極拳の使い手です。

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3. 劈掛拳(ひかけん)

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遠距離攻撃を得意とする拳法

劈掛拳はカテゴリー的には北拳に属します。

全身の力を抜き、両手をぶんぶんと振り回す遠距離攻撃を得意とする拳法です。

腰を支点にして上体を上下左右に降る「蛇身鷹翅(じゃしんようし)」と、

遠隔から弧を描くように腕を振り回す「放長撃遠(ほうちょうげきえん)」の2種の技法を駆使して戦います。

しなやかな動きで相手の側面や背後に回り込み、遠心力を利用した打撃で、連続的にダメージを与えます。

一般的に、劈掛拳を学ぶ者は併せて近距離戦が得意な八極拳も学び、戦いの中で状況に応じて使い分けるのだそうです。

 

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4. 酔八仙拳(すいはっせんけん)

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変則攻撃を得意とする難易度の高い拳法

酔拳と言えば、「酔えば酔うほど強くなる」ジャッキー・チェンの映画を思い出します。ご存知の方も多いでしょうがあれは創作で、実際の酔拳は「酔っぱらいのマネをする」だけであって実際に酔っぱらいながら戦うことはありません。

千鳥足の歩法と、月牙釵手(げつがさいしゅ)と称する手法が特徴です。

酔拳の伝説上の始祖は、「水滸伝」に登場する花和尚(魯知深)であるとされていますが、蘇化子と范大杯という2人の武術家が、複数の武術を組み合わせて作ったのが始まりと言われています。

地面の上を転がりながら敵を油断させ、一撃必殺で人体の急所を破壊することを目的としており、足腰の強さ、身体のバランス、柔軟性が求められる難易度の高い拳法です。

 

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5. 蟷螂拳(とうろうけん)

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カマキリの動きを元に考案された拳法

蟷螂拳はマンガ「グラップラー刃牙」に登場するので、ご存知の方も多いでしょう。

バキが等身大のカマキリと戦うシーンは有名です。

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(C) 板垣恵介, 秋田書店

 

このシーンでも出てくる通り、蟷螂拳はカマキリの動きを模して戦う拳法。

清王朝初期の頃に、山東省の王郎という男が少林僧に勝つために考案した拳法で、彼はカマキリがセミを捕える動作を研究して編み出したと言われています。

王郎の死後に分派。俊敏な動作が特徴の「硬蟷螂拳」と、緩やかな型の「軟蟷螂拳」に大別され、そこからさらに七星蟷螂拳や梅花蟷螂拳など多くの門派に分かれていきました。

一方で広東省や福建省では南拳の流れを組む南派蟷螂拳があり、少林寺で修行した周亜南という人物が、カマキリとスズメの戦いにヒントを得て作ったと言われています。

 

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6. 通臂拳(つうひけん)

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伝説の猿・通臂猿猴(つうひえんこう)をモチーフにした拳法

通臂拳の伝説上の始祖は約2000年の戦国時代の神の使いである「白猿」という人物。

通臂とは「通臂猿猴 」という架空の猿のことで、この猿は両腕が体の中でまっすぐに繋がっており、自由に伸縮できる

通臂拳ではその特徴を取り入れ、高い姿勢からの迅速な遠距離攻撃を得意としています。

訓練では、柔軟訓練の「初部」、拳法の習得「中部」、兵器の習得「後部」に分かれ、兵器の名称には「白猿棍」など、すべて「白猿」と付いています。

 

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7. 白鶴拳(はっかくけん)

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鶴の動作を模した拳法

清王朝の康煕年間、南少林寺の僧だった方彗石(ほうすうせき)という人物から教えを授かった娘の方七娘(ほうしちじょう)を始祖とします。

白鶴拳はその名の通り鶴の動作を模した拳法。

身体で「形」を学ぶと同時に、体内の気力を鍛錬する「功」、実践の応用変化を学ぶ「法」の3つを重視し、強い呼吸を行い気力をコントロールしながら戦います。

白鶴拳では「五行手」と呼ばれる手法を基本とします。

  1. 金行手:両手の甲で前方を打つ
  2. 木行手:両手の指先を前方に向けて敵の急所を突く
  3. 水行手:掌を上に向け胸の前から前上方に差し出す
  4. 火行手:両手を胸の前で交差させて開き、両手を返して掌で前方を打つ
  5. 土行手:胸の前から両拳を前方に突き出す

また、開祖が女性なためか、歩法が纏足の女性が歩くようなチョコチョコとした歩き方も特徴になっています。

 

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8. 太祖拳(たいそけん)

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中国皇帝を伝説上の開祖とする拳法

太祖拳はその名の通り、中国の歴代王朝の皇帝を伝説上の始祖とする拳法。

北派は宋の太祖・趙匡胤南派は明の太祖・朱元璋を始祖としています。

北派太祖拳の特徴は、ボクシングのような鋭い拳の繰り出しとシャープな手技にあり、実戦で役立つことを重んじています。

一方で南派太祖拳は北派と全く異なる流派から来ており、足幅を広く取り、姿勢を低くし、拳技を主にしています。

 太祖拳は、後の琉球空手にも大きな影響を与えています。

以下の動画は南派の形です。

 

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繫ぎ

正直言いまして、素人目にはどれがどの拳法かサッパリ分かりません。

ただ、派手な演舞の印象が強いせいもあり、中国拳法はあまり実用的でない印象があるのですが、実戦をで使えるものが多いのだな思いました。

一方で、心技体の鍛錬をし最終的には仙人を目指す道教的なものもあり、実用的なものとミックスしたのものもありかなり複雑です。

いかに、ディープな世界かがご理解いただけたかと思います。 

次回はこの続きになります。 

reki.hatenablog.com

 

参考・引用:図解中国武術 小佐野淳 新紀元社 

図解 中国武術 (F-Files No.022) (F‐Files)

図解 中国武術 (F-Files No.022) (F‐Files)