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歴ログ -世界史専門ブログ-

おもしろい世界史のネタをまとめています。

【抵抗者】クルドの生ける英雄・オジャランの戦い

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クルド人の絶対的なカリスマ指導者

アブドゥッラー・オジャラン(1948 - 現在)は、トルコ出身のクルド人。

クルディスタン独立を掲げるクルド労働党(PKK)の創立者の1人で、クルド人にとっては絶対的なカリスマ指導者です。

トルコ政府によるクルド人やクルド文化の弾圧に憤ったオジャランは、PKKを指揮して執拗なテロ攻撃を敢行。

1999年に逮捕され、現在はイスタンブールの監獄に収監されています。

しかし、クルドの独立派からは生ける伝説として尊敬されている人物です。

 クルド労働党とは

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クルド労働党(現・クルディスタン労働党)は、1973年に設立されたクルド人の政党。

党の目標をトルコからの独立とクルド人国家の建設を掲げており、イデオロギーとしてマルクス・レーニン主義を掲げています。

現在は和平路線に転じていますが、かつてはソ連やシリアなど東側諸国の武器の援助を受けており、シリア山間部で訓練した武装兵をトルコに越境させ、テロ、暗殺、拉致監禁、何でもありの過激な武装闘争を展開していました。 

クルド人とトルコ人の戦い

クルド人は現在のトルコ南東部から、イラク北部、イラン北西部、シリア北東部の山岳地帯にかけて居住しています。

オスマン帝国末期にアラブ人やスラブ人を始め、トルコの被支配状態にあった諸民族の独立運動が活発化したことに刺激され、クルド人もクルド王国をシリア北東部に作り独立しますがすぐにイギリスの介入で潰されてしまいます。

オスマン・トルコの後継国であるトルコ共和国は、カリスマ指導者ケマル・アタチュルクのもと強力なトルコ民族主義を掲げ、言語を含むあらゆる文化のトルコ化を推進

その中でクルド人独自の文化や文脈は禁止され、「トルコ化」を強要されました。

加えて、トルコの憲法で「国家に対し悪害をもたらす者たち」 の権利の制限が明記されており、このことを根拠に、抵抗するクルド人への国家ぐるみの迫害が行われたのでした。

クルド労働党の旗揚げ

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出典:rendhaberci.com

アンカラ大学のインテリ 

アブドゥッラー・オジャランは、1948年にトルコ南部ハルフェチ県オメルリ村の生まれ。生まれはクルド人居住地域ですが彼自身は純潔のクルド人ではなく、母親と祖母はトルコ人。オジャランはクルド語も話せなかったそうです。

オジャランの兄弟はクルド民族主義団体や武装勢力のメンバーで、それが彼の思想に大きな影響を与えたようです。

アンカラの高校を卒業した後、イスタンブールで法律を学び、その後アンカラ大学に入学し政治学を学びます。

オジャランの元に集まるクルド人たち

在学中の1973年、オジャランはアンカラでクルド人の地位向上のための小さなグループを結成して政治活動を開始します。当初は、クルド人の労働者や農民の話を聞き、それを元に陳情をするといった類いの組織でした。

1977年になると組織のメンバーは増え100名にもなり、様々な背景や信条の持ち主が関わるようになると、外部との摩擦も増え始めます。

トルコ政府からの監視が強まると、それ自体に反発し抗議活動は先鋭化する。

すると極右政党やトルコ民族主義者に敵視され、メンバーの襲撃や暗殺が相次いで発生し、憎悪が憎悪を呼ぶ負のスパイラルに突入していく。

とうとうオジャランと幹部たちは、クルド労働党の設立を宣言しトルコ政府に対し宣戦布告。クルド独立を掲げた武装闘争を開始します。

対トルコ武装闘争

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出典:radikal.com.tr

ソ連と結ぶオジャラン

オジャランはシリアに亡命し、そこでソ連やシリアから武器を調達。トルコ国内に侵入し、トルコ国軍とゲリラ戦を展開しました。

当時、シリアやイラクはソ連と関係が深く、逆にトルコはNATOに加盟しておりアメリカとの関係が深く、ミニ冷戦の様相を呈していました。

実際にPKKはマルクス・レーニン主義を掲げていたため、ソ連の支援も受けやすかったでしょう。

1980年代半ばから、訓練キャンプで組織された武装勢力による本格的な武装闘争を開始。

戦闘は1990年代初頭に最も激化し、トルコ国軍は爆撃機でPKKシンパの村やゲリラの基地を容赦なく破壊。およそ3,000ものクルド人の村が破壊され、2万人もの難民が発生。

難民の多くはアンカラやイスタンブールなど大都市に流れていきました。

トルコのメディアでは、オジャランはトルコ人は皆殺しにする残虐な人物として描かれ、

そのような人物を支持する分離主義者クルド人、そしてそれをかくまう野蛮国家シリア、という具合に国内・国外の敵を作り出すことで、

トルコ政府は国論の統制と不満のはけ口を与えていたのでした。

シリアから見放されるオジャラン

1998年、状況が一変します。

アメリカの仲介のもと、トルコとイスラエルの関係が急速に接近。

イスラエルは仇敵シリアを北から圧迫するトルコの力を期待し、

トルコは最先端の軍事を持つイスラエルの技術支援を期待する。利害が一致しました。

これを見て焦ったのはシリア。 

もはやソ連は存在せず、アメリカを始め周辺国を牽制してくれる国はない。

些末な出来事を口実に軍事介入される可能性が大いにあり得る。ここは少しでも対トルコの火種を潰してしまわねば。 

シリアはオジャランを国外退去処分とし、ロシア行きの飛行機に無理矢理搭乗させました。

オジャランの逃避行、そして逮捕

トルコ人のボイコット、クルド人の抗議活動

オジャランのロシア行きを知ったアメリカは、ロシア政府に対し入国させないように圧力をかけます。ロシア政府はそれに屈し、オジャランに国外退去を命じました。 

オジャランはトルコで逮捕されるより、ヨーロッパで逮捕されることを望みローマ・フィウメチーノ空港で警察に自首しました。

これにて、オジャランはヨーロッパの裁判所で裁かれることになるかと思いきや、ヨーロッパ在住のクルド人による「オジャラン釈放」の抗議活動が巻き起こります。 

今度はトルコ政府からイタリア政府にオジャランの引き渡し要求が来ました。足下の暴動を恐れたイタリア政府はこれを拒否。

すると、トルコ人による反イタリア運動が巻き起こり、イタリア製品ボイコット運動にまで発展

イタリアはまことに辛い立場に立たされることになりました。

国際司法裁判所に連れて行ってくれ

イタリアは結局オジャランに国外退去命令を出します。

オジャランは世界各国の国々に亡命を求めますが、なすすべなく断られる。

ようやくオジャランに手を差し伸べたのは、ギリシャの元海軍将校の男でした。

この男はオジャランの身分を偽らせてギリシャに入国させますが、すぐにギリシャ政府にバレて国外退去処分に。

ギリシャ政府の飛行機で、オジャランはケニアのナイロビにあるギリシャ大使館に移動させられました。

しかしこれもすぐにトルコにばれ、しかもケニア政府からも問題視されギリシャは窮地に立たされます。

オジャランは、ギリシャに最後の望みとして、オランダ・ハーグの国際司法裁判所に連れて行ってくれるよう望みます。

そこでトルコの傍若無人ぶりとクルド及びPKKの立場を主張しようとしたわけです。

これを飲むギリシャ政府。

そしてナイロビ空港に向かい、オランダ行きの飛行機に乗り込むオジャラン。

ところがこの飛行機は巧みに偽装したトルコ軍のジェット機だった!

飛行機はそのままイスタンブールに向けて飛び去り、オジャランはトルコ当局にて逮捕されてしまいました。

和平路線に転じたPKK

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オジャランが逮捕されたとニュースが報じられると、トルコ中はお祭り騒ぎ。

近所にお菓子を配ったり、踊ったりして「悪魔」の逮捕が祝われたそうです。

オジャランは終身刑を言い渡され現在、マルマラ海に浮かぶイムラル島にある刑務所で服役中です。

オジャラン逮捕後、PKKは武装路線から和平路線に転じ、オジャラン自身もクルド人に対しトルコとの協調を訴えるようになっています。 

2015年3月21日に、オジャラン直筆による「武装闘争放棄」の声明が発表されました。こちらのサイトに全文の日本語訳があります。

武力闘争放棄へ―歴史的オジャランメッセージ、全文

 

 

まとめ

これはぼくの憶測でしかないんですが、オジャランは結構「話のわかるヤツ」なんじゃないかって思います。
話が分かるから、今後の展開を踏まえたうえで過激派が主張する過激行為にも加担できるし、トップである自分が捕まった後、組織が四散して泥沼化しないうちに、トルコが進める和平交渉に積極的に参加できる。
今もPKKと散発的な戦闘があるものの、今や本格的な武力行使は沈下しています。
オジャランはまだ存命ですが、次のステップは彼が死んだ後に訪れるのかもしれません。

 

「抵抗者」バックナンバー

第1回:ジャラールッディーン(イラン)

第2回:ペラーヨ(スペイン)

第3回:ヴラド3世(ルーマニア)

第4回:チュン姉妹(ベトナム)

第5回:ラウタロ(チリ)

第6回:テカムセ(アメリカ)

第7回:スカンデルベグ(アルバニア)

第8回:シモン・キンバングー(コンゴ)

第9回:ティプー・スルターン(インド)

第10回:アブドゥッラー・オジャラン(トルコ)

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