不条理神話・死者の国の大王討伐編
前編では、キチェー人の書いた神話ポポル・ヴフの概要と、
- 中途半端な創成神話
- 双子による怪鳥ヴクブ・カキシュ退治
- 双子の父が死者の国・シバルバーの大王たちに殺される
- 双子が誕生、兄をサルにしてしまう
までを書きました。今回は双子の父を殺したシバルバーの王たちと双子が戦います。
今回も前編に負けず劣らず不条理のオンパレードなので、理解をしようとせずに一気に飲み下してください。
前篇はこちら
6. 双子、シバルバーの大王たちの怒りを買う
球技を覚える双子
家の男手である双子は畑仕事や木を切る仕事をしなくてはいけない。双子は魔法を使い、遠隔で道具を動かしてもろもろの労働をやらせた。
しかし、ある時から動物たちが畑を荒らすようになる。そこで双子はネズミをとっ捕まえて虐待を加えた。たまらずネズミは双子にこう言った。
「畑仕事なんていうつまらないことをしている場合じゃありません。あなたたちには球技という大事な使命があります」
そうしてネズミは、双子の父親が残した球技道具を教えた。双子はさっそくその道具を使って球技に熱中し始めた。
怒るシバルバーの大王たち
地下の王国シバルバーの大王たちは、双子の球技のせいで、また騒音に悩まされるようになった。そこでシバルバーは地上に使者を遣わせた。
双子はたまたま球技場に行っていて留守だったので、使者は祖母に「大王たちからの球技の申し込み」の言づてを依頼して帰っていった。
祖母はヒザの上に落ちてきたシラミに言づてを依頼。
シラミが向かうとカエルに出くわした。カエルは「オレの方が足が早いだろう」と言ってシラミを飲み込んでしまった。
カエルが向かうとヘビに出くわした。ヘビは「オレの方が足が早いだろう」と言ってカエルを飲み込んでしまった。
ヘビが向かうとタカに出くわした。タカは「オレの方が足が早いだろう」と言ってヘビを飲み込んでしまった。
双子の元についたタカは、ヘビを吐き出し、ヘビはカエルを吐き出した。しかしカエルはシラミを吐こうとしたが出なかった。しかしよく見たら口の中にひっかかっていた。
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7. シバルバーの大王との戦い
大王たちの悪巧みに打ち勝つ双子
シラミからの言づてを聞いた双子は、すぐ家に帰り家族に別れを告げてシバルバーへ向かう。
シバルバーに着く手前で、双子はスネ毛を蚊に変えて解き放った。
蚊は広間へ入り込み、騙し用の木の人形や火で炙られた椅子を発見。その後、シバルバーの人間を刺していって、広間にいる全員の名前を覚えて双子のもとに戻っていった。
双子は広間に着くと、人形に騙されず、広間にいる全員に名前で呼びかけてあいさつをした。面食らった大王たちは、まあよいと双子に椅子に座るように勧めるが、双子は尻を焼きたくないからお断りします、と拒否。
ますます面食らった大王たち。双子の父に出したものと同じ「火を絶やしてはいけない」宿題を出し、「闇の館」に案内した。双子はたいまつの火を消し代わりにオウムの羽を上部に付け、タバコにはホタルをつけた。これで遠くから監視している番人の目をごまかした。
翌朝、ちゃんと火のついたたいまつとタバコをみて、いよいよ大王たちは面食らってしまった。
大王たちの悪巧みは続く
さっそく球技を始める双子と大王たち。双子はいとも簡単に試合に勝ってしまった。
怒った大王たちは、翌日もその翌日も試合を申し込むが、その度に負ける。
そして連日連夜、恐ろしい館に寝泊まりさせて双子の命を狙った。しかし双子はその度に機転を利かせて生き延びた。例えば。
剣が襲ってくる「剣の館」では、剣に対して「これからは獣の肉をすべてお前のものにしてやろう」と言っただけで剣を納得させて大人しくさせてしまう。
雹(ひょう)が降り注ぐ「寒冷の館」では、火をつけた木切れで雹を吹っ飛ばしてしまう。
ジャガーが襲ってくる「ジャガーの館」では、襲ってくるジャガーに骨を与えて手なずけてしまう。
炎が燃え盛る「炎の館」では、双子は一晩中炎に焼かれるも無傷だった。
死のコウモリ・カマソッツが飛び回る「コウモリの館」では、双子は吹筒の中に隠れて一晩やり過ごした。
しかし、夜が開けたか確認しようと筒から顔を出した一瞬のスキに、フンアフプーは首を切り取られ持ち去られてしまった。
8. 双子の逆襲
フンアフプーの首を取り戻す
イシュバランケーは動物たちを集め、みんなの食べ物を持ってきてくれ、と依頼。
動物たちはイシュバランケーの元に食べ物を次々と持ってくる。その中にあったカボチャをフンアフプーの体に取り付けると、フンアフプーの顔が出来上がって動くようになった。
またウサギに頼んで、球技の途中でボールのフリをするように段取りを整えておく。
球技場に行くと、球技場にはフンアフプーの首がぶら下がっていた。
イシュバランケーとカボチャのフンアフプーは試合を始めた。(フンアフプーが動いていることに大王たち突っ込みせず)
ボールが林に転がって見えなくなった瞬間に、ウサギがすかさず飛び出した。ウサギを追いかけて向こうの方に走っていく大王たち。
そのスキにイシュバランケーはフンアフプーの首を取り戻して、カボチャの首をすげ替えた。
大王たちが負っていたボールがウサギだったことに気づいて球技場に戻ってきたところに、イシュバランケーはつり下げられていたフンアフプーの首に石をぶつけてみせた。
大道芸人となって蘇る
シバルバーの大王たちは、次に火をおこしてその上を飛び越えてみせよ、と双子に言う。双子は「どうしても我々を殺したいのなら、そうしてやろう」と言って、自ら火の中に飛び込んでしまう。
とうとう双子を倒すことに成功して大喜びの大王たち。双子の骨は砕かれて川に投げ込まれた。しかし粉は川の中で再生され、双子は5日後には人魚の姿でゆうゆうと川の中を泳いでいた。
元の姿に戻った双子は、ボロをまとい大道芸人としてシバルバーに戻ってきた。
芸はすばらしく、特に切り刻んで殺した者を生き返らせる芸が評判になり、それは2人の大王ヴクブ・カメーとフン・カメーの知るところとなった。
大王2人は実際にその芸を見せてもらう。
大興奮した大王。オレもやってくれ!と双子に言う。
双子はさっそくヴクブ・カメーとフン・カメーを切り刻み、もちろん生き返らせなかった。
シバルバーの住人はパニックになり、双子の前にあっさり降参。
双子はシバルバーの住人に、「良い人間にはここには来ない、これからはろくでもない人間が落ちる場所とする。お前たちはそんな連中としか今後は交流できない」と宣告。シバルバーは地獄という場所になった。
それから双子は球技場に埋められていたフン・フンアフプーの遺体を見つけて丁重に葬った。
何もかもやりとげた2人は天に昇り、1人は太陽に、1人は月になった。(※つまりこれまで太陽と月は存在してなかった…!)
(…ここで唐突に忘れられていた人類誕生の話がねじ込まれてきます)
9. 人類誕生
木の人間の失敗の後も、神たちは自分を敬ってくれる者・自分たちに糧を与えてくれる者を欲しがった。
今度は、トウモロコシの粉を使って人間を作ってみた。すると、高い知性を持つ人間が出来上がった。この最初の4人は、すべてを知り、すべてを見ることができる完璧な存在。
あせった神は、4人の前に霞をかけて目をくもらせて、近くのものしか見えないようにした。神はこの4人に女4人をあてがってやった。これらの人々が人類の、キチェー人の祖先となったのである。
まとめ
人類誕生の話まで引用いたしました。
しかしこれはポポル・ヴフの前半にすぎず、後半は祖先8人からスタートしたキチェー人がどんどん増えていき、いくつもの部族に別れて安住の地を求めた長い旅が始まる、というもの。
これもまた、突っ込みどころ満載の奇想天外なストーリーらしいので、興味ある方は是非。
参考文献:古代マヤ・アステカ 不可思議大全 芝崎みゆき 草思社