歴ログ -世界史専門ブログ-

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タバコの文化史

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人間とタバコの特別な関係

夜に居酒屋で飲み会があったとします。

帰宅してジャケットを脱いでハンガーに架ける。翌朝、会社に行こうとしてそのジャケットを着る瞬間。

「くさい!!」

タバコのヤニの匂いがムンムンしてて、着るのがほんとうにイヤになってしまう。そんな時ぼくみたいにタバコを吸わない人間は、心からタバコとタバコを吸う人間の存在を呪うのです。

しかし人間の歴史の中で、タバコの広がりやその文化としての定着具合を見ると、人に嗜好されるべくしてされている、特別な存在なのだということも分かります。

 

 

神と人間を繋ぐ聖なる植物 

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古くから嗜まれたタバコ

 タバコの原産地は南米アンデス。

南北アメリカのインディアンの人々は、かなり古い時代からタバコを嗜む習慣を持っていたようです。

7世紀頃のマヤ文明の遺跡にタバコを吸う神のレリーフが見つかっていたり、また部族をまたいでタバコに関する神話や言い伝えが数多く残っています。

その神話の中でタバコは「争いを鎮めて平和をもたらし、神と人間を繋ぐ聖なる植物」という表現をされています。

気持ちを落ち着かせ、冷静になる

ぼくはタバコを吸わないのでよく分からないのですが、 友人曰く、

 イライラしていたり、頭の中がぐちゃぐちゃで整理されてない時にタバコを吸うと不思議と気持ちが落ち着き、頭が冴えて集中できる、のだそうです。

Have a Break じゃないですけど、議論をいったん休めてタバコでも吸って冷静な頭になると、

「さっきはああ言ったけど、あっちの会社だってこれくらいマージンがないと目標達成できないんだよなあ」

「あの部長はすごく頑固だけど、ああやらないと威厳を保てないからしょうがなくやってるんだろうなあ」

とか分かってきて、妥協点に向けた建設的な議論に向かっていけるのでしょう。

 

インディアンのタバコの吸い方

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15世紀の記録によると「いくつかの枯れ草を、1枚のやはり枯れ草で巻いたもの」を吸うとあるとあり、いわゆる葉巻であったようです。

また、動物の角に穴を開けたものに葉を詰めて吸っていたとあり、これはパイプですね。

その他にも、粉末を鼻から吸い込む「嗅ぎタバコ」や石灰と葉を噛む「噛みタバコ」もあり、色々な方法でタバコを楽しんでいました。

 

聖なるパイプ

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パイプは神や精霊との対話の道具

インディアンにとってタバコは単なる嗜好品ではなく、神と対話する方法でした。

正統派のインディアンは毎朝、上る朝日に向かってあぐらをかきパイプをふかせて大いなる神秘に感謝する儀式を行っていました。パイプからくゆらせる煙は、天上におわす神や精霊への捧げものであり、感謝の言葉であったのです。

パイプを介した約束は絶対

それは転じて、「パイプを介した約束は絶対」という暗黙の了解に結びついていきました。何か重要な取引や決めごとがあると、必ず決済の前にパイプを吸い交わされました。これから行う決めごとは、双方嘘偽りなく、誠実に行われるべしという意味です。そして無事に合意に至ると、最後にまたパイプが吸い交わされました。合意に至った取り決めは、神や精霊の名に誓って、背くことなく速やかに履行されるべしという意味で、当事者がパイプを吸うことはそれに同意したと見なされました。

 

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タバコの世界拡散

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ヨーロッパ人で最初のニコチン中毒者

1492年にサン・サルバドル島に到達したコロンブス。

彼はこの地をインドだと思っていたので「豊富にあるはずの黄金」を求めて原住民を問いつめますが、そんなものは存在せずガッカリ肩を落としてしまいます。

そんなコロンブスに原住民が献上したのが、「数枚の枯れた葉っぱ」。

最初はそんなもの誰も見向きもしませんでしたが、ある船員が原住民のマネをして喫煙を始めます。見かねた仲間が原住民のマネなどよせ、と諭しますが、

「もはや自分の意志でこれを止めることは難しい」

と答えたと言います。

世界に広がったタバコ

コロンブスが持ち帰ったタバコの種は、当初は万能薬としてヨーロッパに紹介されました。

フランスの駐ポルトガル大使であったジャン・ニコは本国帰還の際にタバコの種を本国に持ち帰ります。ニコはタバコを使って、王妃カトリーヌ・ド・メディシスの頭痛を治すことに成功。「ニコチン」にその名を残します。

17世紀の三十年戦争で、パイプを使った喫煙がヨーロッパ中に広がり需要が一気に拡大。当時のタバコの生産地はイギリスの北米植民地ヴァージニアで、タバコはイギリスに莫大な富をもたらしました。

この富はイギリスと植民地アメリカに確執をもたらし、やがて独立戦争に突入していきます。タバコがもたらす富がいかに大きかったかが分かりますね。

 

粋でカッコいいタバコ

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フランス革命とタバコ

フランスで流行ったのは「嗅ぎタバコ」。

粉末状にしたタバコの葉と香料を混ぜて棒状にしたものを携帯して、ひとつまみ掴んで鼻からスッと吸い込む、というもの。

優雅に吸って上品にくしゃみをするところまでがマナーとされていて、火も使わず煙もないため上流階級の優雅な趣味として宮廷や社交界で大流行しました。

フランス革命が勃発すると、ワイルドにパイプをくゆらすブルジョワ勢力が貴族を駆逐。ところ構わず煙を吐き出す行為は自由や革命の象徴とみなされました。

そういえば、カストロやゲバラも葉巻やパイプを吸ってる姿がカッコいいのですよね。

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日本人とタバコ

日本にタバコが到達したのは戦国期。

南蛮人が口から煙を吐き出す姿に、当時の人々は恐れおののき、

「南蛮人は腹で火を炊いている!」

と言ったと伝えられています。

しかし織田信長の南蛮趣味もあり、キセルは戦国期の武将たちに愛用されすぐに広がります。

江戸時代になると喫煙文化は庶民にも広がりました。喫煙をする道具にもこだわりが生まれ、粋にカッコよくタバコを嗜む文化が根付きました。

大阪の「播磨屋」、江戸の「住吉屋」「村田屋」など高級キセルメーカーがしのぎを削ったり、茶道ならぬ「たばこ道」が生まれたり、タバコは江戸の重要な庶民文化の一翼となっていきました。

 

為政者によるタバコ弾圧策

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タバコ税と禁煙運動

喫煙者はタバコが高いと文句を言いますが、日本は比較的タバコが安い国の1つです。ヨーロッパの国では1箱1000円などザラです。

それでも日本のタバコは64.4%が税金で、これによって2兆円近くの財源があると言います。(※JT 経済/たばこ税の仕組みより

禁煙は今や世界的なトレンドになっているので、日本政府はタバコ税をより上げることで喫煙者数の抑制と財源の確保の2つを達成しようとしています。

喫煙者数を抑制しようという試みは今に始まったことではなく、過去幾度とも為政者が取り組んでは成果が出ずに失敗した政策です。

イングランド王ジェームズ1世

1604年にイングランド王に就任したジェームズ1世は就任早々、大規模な禁煙キャンペーンを展開。

「未開で神を信じない卑しい異教徒の、野蛮で不潔な風習」

と、クソミソにこき下ろしています。

ジェームズ1世は前任者の政策や風習を徹底的に排除しようとし、タバコの関税を40倍に引き上げたり、かなり無茶なタバコ抑制策を実施しますが、結局密輸入が増えて闇タバコの価格が以前のレートよりも下がってしまい、逆効果になって失敗しています。

健康主義者ヒトラーのタバコ抑制策

ヒトラーは健康オタクで自身も菜食主義だったし、バランスのよい食事の推進、癌の研究、健康診断の導入など、数々の健康政策を採用したことでも有名です。

ナチスドイツ下ではタバコは「癌をもたらす健康の敵」だとして、禁煙キャンペーンを展開。公共の場での喫煙禁止や、たばこ税の増税が実施されました。

これに対してドイツのタバコ会社は「政府の禁煙施策は反科学的である」として逆に喫煙促進キャンペーンを展開したそうです。

初期の頃ははかばかしい成果は上げられず、戦争末期にはある程度の成果は上げたものの、国民の間から喫煙を撲滅するには至りませんでした。

 

 

まとめ

ぼく自身はタバコが大嫌いですが、喫煙の習慣はきっとなくならないのでしょう。

別にタバコ自体はあっていいのですが、タバコを吸わない人の気持ちをもうちょっと考えてほしいです。JTのコマーシャルじゃないですけど、喫煙者と非喫煙者が共存できる社会になってほしいものです。

とりあえず、飲食店の全面禁煙化はやってもらいたいです。

 

参考資料:「炭素文明論」佐藤健太郎 新潮社

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)

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