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歴ログ -世界史専門ブログ-

おもしろい世界史のネタをまとめています。

マニ教に学ぶグローバルマーケティング戦略

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Photo by PHGCOM

 第4の世界宗教になりかけたマニ教

何か高校の世界史の授業で習ったような気がする。

少し歴史に詳しい人でも、何か中東とか中国で一時的に流行ってすぐに衰退した、というくらいしか知らないと思う。

ぼくは以前たまたま本屋で見つけた、マニ教(講談社選書メチエ)を読んで、かなり興味が湧いたのですが、マニ教はキリスト教、イスラム教、仏教に次ぐ、第4の世界宗教になりえるポテンシャルを持っていた宗教だった。

成功の要因は、そのマーケティング戦略にあった。

 

 カリスマ指導者が作り上げた完璧な宗教

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3世紀、現在のイラン出身のマーニー・ハイイェーという人物によって作られた。

グノーシス主義、ユダヤ教、キリスト教、ゾロアスター教、ミトラ教、伝統的なイラン土着の信仰、仏教・道教の教えを取り入れ、融合させた上で独自の世界観に昇華させている。

世界宗教と言うのは、キリスト教もイスラム教もそうだが、

教祖がざっくり作り上げた教団を、弟子たちが侃々諤々、時には血を流して分離と結合を重ねながら、教団と教理を一つにまとめあげてなりたっていく。 

だがマーニーという男はよほど几帳面な男だったらしく、

教義と教団組織を一代で完璧に作り上げ、教理を絵付きの書物で美しくまとめ上げ

さらには後継者とその布教の方法まで事細かに引き継ぎして死ぬという周到さ。

マーニーさんの作り上げた宗教、それがすなわち「マニ教」であった。

では、なぜマニ教がここまでヒットしたのかの成功要因とその戦略を見ていこう。

 

戦略その1. 格好いいデザインで売る

マニ教の大きな特徴に、布教の中心に「書物」を使った点が挙げられる。

マニ教の神話を、美しい絵と散文的な文章であしらった文章で読み聞かせ、見る人を虜にした
どうやらマーニーさん自身がかなり美的センスに溢れた人だったらしい。

現代風に言うとスティーブ・ジョブズのような人だったのでしょうか。

いつの時代も、格好いいデザインは人を引きつけるんですね。

 

戦略その2. 教えを土地に応じてローカライズ

上述した通り、マニ教には既存の様々な宗教の要素が融解している。

マーニーは布教するにあたり、「入信者の理解のしやすさ」を重用視した。

 

ゾロアスター教の優勢な地域への伝道には、ゾロアスター教の神々や神話。

ヨーロッパや中東地域の伝道には、イエス・キリストの福音。

東方への伝道には、仏陀の教えを前面に。

 

地域に応じて布教の仕方や教義を変えていった。

入り口はおなじみの教えだから安心して少し深く踏み込むと、最終的にはマニ教の世界観に到達している、というわけ。

 

戦略その3. 複雑な世界を分かりやすく

マニ教の世界観だと、

この世は「光の王国 偉大なる父ズルヴァーン」と「暗黒の冥界 闇の王アフレマン」との闘いの歴史。

どこのRPGかと突っ込みたくなるような中二っぷり。

そして我々人間はというと、その闘いの過程で闇の世界によって作られたゾンビのような存在であるらしい。

 

なぜ太陽は輝くのか。

なぜ月は満ち欠けするのか。

なぜ我々は生きるのか。

 

生きていく中でわき起こってくる様々な謎や疑問を、

「それは全部、神様の戦いの産物なんだよ」と一刀両断してくれる分かりやすさ。

自ら考えて悟りを開かなくても、良い意味であきらめがつく分かりやすさがマニ教の魅力であったのだろう。

 

絶対的な禁欲主義

まとめると、

かっこいい絵本で、馴染みのある話を使って、この世界をわかりやすく説明する

というのが、マニ教布教の基本マーケティング戦略であった。

 

では、実際のマニ教の戒律はどのようなものであったか。

以下、マニ教の戒律だが、これがけっこうキツい。

  1. 殺生、暴力禁止
  2. 自殺禁止
  3. 肉食禁止
  4. 飲酒禁止
  5. 性交禁止
  6. 商業以外の生業の禁止
  7. メロン、ブドウ、キュウリをとにかく食え
  8. 讃歌を歌え。教えを広めろ

1、2、3、4は他の宗教にもある気がする。けれど、5、6はキツいね。

 

性交禁止の理由は、生まれからして不幸な存在である人間をこれ以上増やすのは神の意思に反するということ。

 

商業以外禁止ってのは、土を耕したり獣を狩ったりすること自体が教義で禁止されているから、自ずと商業しか就ける職業がないから。

 

7は意味不明なのだが、メロン、ブドウ、キュウリは光の王国のパワーを持っているから、この3つを食って光の要素を解放してあげる、というのが理由らしい。

単にマーニーがこの3つが好物だったから、という説もある。

 

拡大するも徐々に埋没…マーケティング戦略がアダに…

教祖マーニーの死後も、マニ教はユーラシア各地に広がっていった。

しかし元々各地の宗教に追号する形で普及していったため、

信仰される地域が広がれば広がるだけ、オリジナリティを保つことが困難になり、教義の一貫性を維持できなくってしまった

おそらく東のマニ教と西のマニ教とでは、全く違うものになっていたのだろう。

マニ教としてのガワは近世になるまで保ったものの、既存宗教に異端として弾圧されたり、他宗教に取り込まれたりして、次第に信者を失っていった。

しかしマニ教は後世、イスラム教の成立、キリスト教カタリ派(アルビジョワ派)、中国の白蓮教などに影響を与えた、と言われている。

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