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アンクル・サムのモデルになった人物とは?

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アメリカを象徴するキャラクター、アンクル・サム

「I WANT YOU FOR U.S. ARMY」のポスターは高校の美術の教科書で見たことあると思います。

これは1917年にイラストレーターのジェームス・モンゴメリー・フラッグによって描かれたもので、第一次世界大戦の新兵募集のポスターです。絵画作品としても非常に美しく、一度見たら忘れない強烈なインパクトがあります。

この中央に描かれている人物が、アメリカを象徴する人物アンクル・サム。略してUS(Uncle Sam)で、アメリカの愛国心をキャラクター化したものです。

アンクル・サムのモデルは諸説ありますが、最も有力なのがサムウェル・ウィルソンという人物です。

 

1. アンクル・サム以前のアメリカのキャラクター

アメリカの愛国心を象徴するキャラクターは、アメリカ建国以前から存在しました。

最も古く1738年に登場したのが、「コロムビア」という名がついた女性のキャラクター。

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アメリカ国旗を身にまとい、「自由と独立」を表現したキャラクターでした。

このキャラクターは後のアンクル・サムが登場して以降も使われていましたが、1920年に映画配給会社「コロムビア・ピクチャーズ」が自社のキャラクターに用いて以降は、一般的に使われなくなっていきました。映画が始まる前の画面で大変馴染み深いですね。

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独立戦争の時代から登場したのが、男性キャラクターの「ブラザー・ジョナサン」。

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シルクハットと蝶ネクタイ、モーニングを羽織り、縞々のパンツに革靴という出で立ち。典型的な「アメリカの資本家」のイメージです。

 白黒なのでよく分かりませんが、先程のコロムビアが身にまとっていた星条旗カラー、ブルー、ホワイト、レッドで色づけると、既にアンクル・サムに見た目が近いです。

 

 

2. 戦時ビジネスで成功したサミュエル・ウィルソン

さて、ここからが本題です。

アンクル・サムのモデルになったのは、サミュエル・ウィルソンという人物というのが定説となっています。

サミュエルの写真がこちら。

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うーん、ポスターと似てるような、似てないような。大きなところでいうと、立派なあごひげがありません。あと、それほどカーリーヘアーでもありませんね。

 

1789年、ウィルソンとは兄弟エベニーザー(Ebeneezer)と共にニューヨーク州トロイに引っ越してきて家を立て、肉を取り扱う商社「E.&S.ウィルソン」を設立しました。

1812年に米英戦争が勃発。アメリカ政府と牛肉と豚肉の独占的な販売契約を結んだE.&S.ウィルソンは大成功し、兵士たちに提供する肉を樽に詰め込んで出荷する仕事に兄弟は大忙しとなりました。

伝説によると、彼らは出荷する樽の上に「US」とマークを入れて出荷しました。アメリカ軍の所有物であるので、もちろん意味は「United States」です。

ある兵士が「なあ、このUSってのはなんて意味なんだい?」と尋ねた。

すると同僚の兵士が「ああ、そりゃサムおじさん(Uncle Sam)からの提供って意味さ」と冗談を言った。

この冗談がなぜか兵士の間で広がり、アメリカ製の品物はすべて「サムおじさん」のものとなり、それがさらに広がってアメリカそのものを表すようになった、というものです。

 

もっともらしい伝説なのですが、反論もあり、樽の上に「US」と書き出したのは1842年からなので、それ以前にはなかったはず、というものです。

ただし、アンクル・サムという言葉は米英戦争の時代から出現していることは確かなので、どういう経緯かは定かではありませんが、兵士たちはアメリカのプロダクトを「サムおじさん」と呼ぶようになり、後にアメリカという国自体を指すようになりました。

1813年の段階でアンクル・サムは公共印刷物によって言及され、その後1830年5月12日にニューヨーク・ガゼット紙の報道でサミュエル・ウィルソンが初めて言及され、「アンクル・サムとはサミュエル・ウィルソンのことなのだ」という認識が広がったとされます。

 

アンクル・サムがキャラクターとしてビジュアル化したのはもっと後で、1852年3月13日のニューヨークランタン紙に投稿された漫画家フランク・べリューの挿絵が一番始めです。

以下の絵は1861年12月21日にハーパーズ・ウィークリー紙に掲載された挿絵。

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ごく初期のアンクル・サムは、アメリカンカラーやシンボルの衣服を身にまとっているのは共通ですが、まだあごひげがなく、これといった特徴がありません。

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3. アメリカを象徴するキャラクターに 

1876年までに、アンクル・サムのイメージは今我々が想像できるスタイルに落ち着きました。シルクハット、痩せた頬、モーニング、蝶ネクタイ、縞パンというスタイル。

下記は漫画家トーマス・ナストが描いた、1876年11月24日のハーパーズ・ウィークリー紙の表紙。

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一番大きな変化が顔で、「初老のあごひげの男」になったことです。

これはおそらく、エイブラハム・リンカーンの顔に寄せられたためと思われます。

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今一般的なアンクル・サムの顔も、どことなくリンカーンの顔に似てませんか?

 

さて、19世紀後半まで「ブラザー・ジョナサン」と「アンクル・サム」の両方が使われていました。ところが次第に両者の特徴が溶けていき、どちらがどちらか見分けがつかなくなっていきます。

 

(上)1886年に描かれた「ブラザー・ジョナサン」

(下)1897年に描かれた「アンクル・サム」

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そして、決定的にアンクル・サムがアメリカを代表するキャラクターになったのは、冒頭で上げたジェームス・モンゴメリー・フラッグによって描かれた第一次世界大戦の新兵募集のポスターによってです。

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このポスターの元となったのは、キッチナー卿が描かれたイギリス軍の新兵募集ポスター。

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人物がこちらに指を刺すレイアウトは同じですが、前者のほうがよっぽど力強く、見る者の心を動かす力を持ってるのはどういうわけでしょうかね。

このポスターは第二次世界大戦中も使われ、アメリカ国内のみならず、国外でもアメリカを代表するキャラクターと認識されるようになったのでした。

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まとめ

 そういえば、日本を代表するキャラクターっていませんね。

昔は、メガネ、出っ歯、カメラを持ったスーツ姿の男というのが典型的な日本人の姿でしたけど、最近は理解が進んだのか、とんと見かけません。

アメリカがここまでアンクル・サムを自分たちの国のキャラクターとして愛せる理由は、それが姿形は変われど、「アンクル・サムは自由・平等・正義を象徴する」と信じているからだと思います。そのポリシーをアメリカという国が持ち続けている限り、アンクル・サムはアメリカのキャラクターであり続けるのでしょう。

 

 

参考サイト

"‘UNCLE SAM’ WAS A REAL PERSON" TODAY I FOUND OUT 

Uncle Sam - Wikipedia

"Uncle Sam" Sonofthesouth.net