天才・作曲家たちの作った音楽と奇人エピソード
歴史上の芸術家たちの変人っぷりを伝えるエピソードは事欠きません。
そういうのを耳にするたびに、ああ、やっぱりこの人たちは普通の人とは違うんだよなあ、と実感するのですが、ある種社会的通年や常識から自由でないと芸術は作れないのかもしれません。
今回は名だたる作曲家たちのとんでもないエピソードとそれにまつわる音楽を紹介します。
1. エリック・サティ 1866-1925(フランス)
20世紀の巨匠の風変わりな慣習
エリック・サティは20世紀の西洋音楽に多大な影響を与えたフランスの作曲家。
ピアノ独奏曲「ジムノペディ」は、テレビCMにも使われるので誰しも一度は聞いたことがあると思います。
ドビュッシーを始め生前から多くの作曲家たちに影響を与えた人物ですが、稀代の変人としても有名でした。
作品のタイトルも変で、「犬のためのぶよぶよとした前奏曲」「でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかい」「いつも片目を開けて眠るよく肥った猿の王様を目覚めさせる為のファンファーレ」など、これだけ見ても彼が普通じゃないことがよく分かります。
これは「犬のためのぶよぶよとした前奏曲」。全然意味がわからん。
彼は太陽を憎み、護身用にいつもポケットにハンマーを入れていました。
服装はいつも灰色のスーツで、彼は同一のものを12着所有しており、1着がボロボロになるまで使い切って、次のスーツを着るという奇妙な着回しをしていました。彼の死後はまだ6着も残っていたそうです。
死後に部屋を片付けると、そこには数多くの手紙が発見されましたが、それは彼が彼自身に充てた手紙だったそうです。
2. アレクサンドル・スクリャービン 1872-1915(ロシア)
豊かすぎる感性から傾倒した神秘主義の表現
スクリャービンは20世紀ロシアを代表する作曲家で、彼は先天的に共感覚(ある刺激に対して2つ以上の感覚を感じる知覚)を有しており、音を聞くと色彩を感じることができたそうです。
特に有名な曲は「第12番 嬰ニ短調」。
彼のの豊かすぎる感性は彼を神秘主義へと傾倒させ、ピアノソナタ第7番「白ミサ」は「悪魔を追い出す」とし、ピアノソナタ第9番「黒ミサ」は「悪魔たちを生きたまま地獄に送り返す」ための曲としました。
彼の最期の仕事は「神秘劇(ミステリリウム)」という名の歌劇(未完)。これは7日間にわたってヒマラヤ山脈の麓で興業が予定されていて、オーケストラ、混合合唱団、視覚効果のある楽器、ダンサー、演奏家が含まれた大規模なもので、演技・音・視覚効果だけでなく、音楽にふさわしい香りが流され、雲の上からつるされた鐘が観客を召喚し、これによって人類はより良いステージに進んでいく、という歴史と生命の一大スペクタクル大作となる予定でした。
YouTubeにありましたが、2時間以上もあります。どうぞ時間のある時にご覧ください。
スクリャビンは元々体が強いほうではなく、人一倍健康には気を使っていましたが、唇の虫刺されから敗血症になり、43歳で死亡しました。
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3. ハリー・パーチ 1901-1974(アメリカ)
Source: Composers' Recordings
西洋音楽の枠から外れた型破りの音楽家
ハリー・パーチは20世紀アメリカを代表する現代音楽家で、彼の母親も息子に割礼を施すなど変わった人だったらしく、複数の楽器を同時に演奏する方法を幼いパーチに教え込みました。
大学を中退し、大恐慌の間はホーボー(日雇いをしながら各地を流浪し音楽を作る人)をして日銭を稼ぎながら、砲弾殻や古い燃料タンクなどを集めて楽器に仕立てていきました。
彼が完成させた音律理論は、43微分音階を基準にし、楽器も彼が独自に作ったりした独特の楽器で、これまでの西洋音楽ではあり得ないリズムと韻律を生み出し、聞く人を仰天させました。
パッと聞くだけだと信じられませんが、パーチは自分の作品は、まるでオーケストラの演奏に合わせて歌ったり演技したりするような「体系的」なものであるとしていました。
1955年の作品「The Bewitched」では、演奏家たちに「試合に負けた女子バスケットボールチームの選手が、シャワールームでまるでギリシアの神ヘルメスに捧げるかの如し本能的なダンスを踊っている」かのようなパフォーマンスを求めました。
なんかレベル高すぎ!
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4. アントン・ブルックナー 1824-1896(オーストリア)
生涯未婚の後期ロマン派音楽の大家
アントン・ブルックナーは19世紀を代表する交響曲と宗教音楽の作曲家。
バッハやベートーベン、ワーグナーに傾倒し、ウィーン大学で音楽の教授をしながら作曲活動を続け、交響曲第7番とテ・デウムで商業的にも成功し、晩年には尊敬を集める大先生になっていました。
ブルックナーの交響曲第7番
名声を勝ち得て誰もが知る大作曲家になったわけですが、彼は生涯一度も結婚することはありませんでした。彼にその意思がなかったわけではなく、何度も求婚をしてはその度に断られていました。なぜなら彼は筋金入りのロリコンで、10代の女の子しか愛せず、72歳で死ぬ直前まで若い女の子にアプローチし続けていたそうです。そりゃ結婚できんわ。
5. フランティセック・コックべラ 1730-1791(チェコ)
異常な性癖の死に方をした作曲家
フランティセック・コックベラはあまり有名ではありませんが、彼の作「プラハの戦い」は、まるでドラクエのBGMのような雄大で勇ましい曲です。
コックベラはどっちかというと、彼のとんでもない死に方のほうが有名です。
1792年、コックベラはスコットランドの売春宿でスーザナ・ヒルという売春婦にサービスを受けていました。ヒルと食事をしてブランデーを飲んだ後、ベッドに行き、コックベラは「オレのアソコを切り取ってくれ」とヒルに頼んだ。ヒルは拒否した。
その代わりに「情熱を上げるために、オレの首をロープで結んで吊るしてくれ」と頼んだ。ヒルは迷ったが望み通りやってあげた。
翌日ヒルは殺人罪で起訴され、裁判を受けることになりましたが、陪審員は状況を理解してヒルを無罪としたのでした。
コックベラの死にざまは一躍イギリス中のゴシップのネタになり、抜け目のないヒルは「近頃の性癖または絞首刑の芸術にまつわるエッセイ(Modern Propensities; or, an Essay on the Art of Strangling)」という名のエッセイを発表したのでした。
6. アルノルト・シェーンベルク 1874-1951(オーストリア)
Work by Florence Homolka
「13」を異常に怖がった大作曲家
アルノルト・シェーンベルクは若いころは後期ロマン派音楽に大きな影響を受け曲を作っていましたが、次第に巨大な編成と楽曲、オペラや合唱を組み合わせた大作を作るようになっていきます。
代表作は「月に憑かれたピエロ」。
ワルシャワからの生き残り
彼は生涯、「13」という数字を異常に怖がりました。
13はもともとキリスト教では不吉な数字と言われていますが、彼は1874年9月13日の生まれで、13日に生まれたことで自分は不幸の元に生まれていると信じ、なるべく13という数字を避けようとしました。
例えば、歌劇「Moses und Aaron(モーセとアロン)」のアルファベット数が13であることに気付いた彼は、「a」を一つ取り除いて「Moses und Aron」という12文字の名前に変えて発表したのでした。
1951年、76歳になったシェーンベルクは「7と6を足したら13だ。オレはもうダメだ」と落ち込んでふさぎ込み、実際に病気で床に伏せがちになりました。
そして彼が最も恐れていた7月13日に、気管支喘息で亡くなりました。
7. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 1756-1791(オーストリア)
下ネタと猫が大好きだったモーツァルト
作曲家の大変人のトドメと言えばこの人しかおるまい。古典派を代表する大作曲家・モーツァルト。
モーツァルトの曲で我々が聞き慣れているものは数多くあります。
テレビCMやBGMにもよく使われいる「レクイエム」。
絶対誰もが知ってる「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。
個人的に好きなのが「ピアノソナタ第16番第2楽章」。
美しくもキャッチーで耳に残る曲が多いモーツァルトは日本でもファンが多いのですが、実は彼は大変な「下ネタ好き」でもありました。
妻のコンスタンツェに充てた手紙にも卑猥な内容がツラツラ書いてあるそうですが、一番可笑しいのが従妹で恋人のベーズルに充てた手紙。「ベーズル書簡」と言われるもので、至る所にオシリとかウ〇コとか書いてあります。
キミの鼻の上にウ〇コをしてやろうか
ありゃ、おしりが火のように燃えてきたぞ こりゃ一体何ごとだ!きっとウ〇コちゃんのお出ましだな?
さて、お休みなさい。花壇の中にバリバリっとウ〇コをなさい。ぐっすりお眠りよ。お尻を口の中に突っ込んで…
当時の貴族の間ではこのような下ネタが大流行していたらしく、小学生レベルの下ネタを書き連ねて喜んでいたのは彼だけじゃなさそうなのですが、モーツァルトは奔放な性格であり、たびたび「猫のモノマネ」をしていたそうです。歌手とオペラのリハーサルをしていた際、退屈したモーツァルトは突然椅子から飛び跳ねて、ニャーニャー言いながら転がりまわったです。
彼はまた「夫の質問に対し妻がひたすらニャーニャーと答える」曲「Nun liebes Weibchen, ziehst mit mir」も作っています。
下ネタ大好きで、猫も大好きなんて、もしモーツァルトが現代のインターネットの世界にやってきたら大変なことになりますね。
ちなみに モーツァルトが記した「糞まみれ」の手紙はこちらの本で全訳が読めます。
モーツァルトの手紙 上―その生涯のロマン (岩波文庫 青 504-1)
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まとめ
ぼくも昔はクラシック音楽は退屈でよく分からんと思っていましたけど、だんだんその良さが分かるようになっていくものです。
今回は「奇人変人」という角度で歴代の作曲家を紹介しましたが、いかに彼らが変わった性格をしていたからと言って、残された作品が貶められられるということは決してなく、人類が生んだ芸術作品として後世に長く残っていってほしいものです。
・関連書籍
参考サイト
"10 Classical Composers With Extreme Eccentricities" LISTVERSE