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男女を表す記号の成り立ち

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実はアカデミックな由来を持つ男女のシンボル

街を歩いていてこの男女のシンボルマークを見たら、まあ、十中八九「そういうお店」に違いありません。

目立つし、シンボリックだし、すぐ気づきますよね。

ところでこの男女のシンボルマークの由来をご存知でしょうか?

なんとなく、「男女の生殖器をシンボル化したものでは?」とお思いじゃないでしょうか?

特に男なんてモロにソレやん。ぼくもそのように思っていたのですがどうも違うようです。その起源は古代ギリシアにまで遡ります。

 

 

1. 天体を記号で表した古代ギリシア人

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エジプトやマヤ、中国など天文学が盛んな古代文明はたくさんありましたが、古代ギリシアもその一つ。

古代ギリシア人たちは、天体には規則性はあるものの全く同じ規則ではなく少しずれがあることを理解しており、天体の動きを知ることで「未来を予言することができる」と考えていました。

彼らは自分たちの運命を決める天体を神様と同一視しました。例えば、火星(Mars)は「軍神アレース」、水星(Marcury)は「俊足の神メルクリウス」、金星(Venus)は「女神アプロディーテー」(ローマでヴィーナスとアプロディーテーは同一視される)など。

ギリシア語では天体はそれぞれ独自の名前を持っていますが、英語を含む諸外国語では天体の名前はギリシアの神様の名前で呼ばれるようになります。

 同時に身近に利用する金属は天体と同一視されるようになり、例えば太陽は金、火星は武器を作るための鉄、金星はより柔らかい銅で表されました。

日常的に天体の名前が使われるようになると、天体の名前の速記版が作られるようになります。

その中で、火星(ギリシア語:Thouros)は速記で「♂」と書かれ、金星(ギリシア語:Phosphoros)は「♀」と書かれました。

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 そういうわけで、♂は火星をベースにして鉄、軍神マルス、そこから強さや男らしさ、のような意味が連想され、

♀は金星をベースにして銅、柔らか、女神アプロディーテー、そこから女性らしさ、優しさのような意味が連想されるようになったのでした。

 

 

2. 分類学の父リンネ

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 18世紀にこの古代ギリシアの速記版を分類学に持ち込んだのは、スウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネ。

リンネは生物を分類し「網、目、属」のような単位に分けた分類表を作ったことで知られ「分類学の父」と称される人です。

彼は1751年に発表した論文「Plantae hybridae(植物の交配)」において、植物の雄しべに♂、雌しべに♀の記号を付けて区分しました。整理が好きだった人なんでしょうね。

次いでリンネは1753年に発表した歴史的な書「Species Plantarum(植物の種)」でも引き続き「雄=♂」「雌=♀」を使っています。現代の植物の学名はこの書から始まっているほど、この書は当時の植物学に革命的なインパクトをもたらしました。

そこで使われている区分の表示記号ということで、他の植物学者も「雄=♂」「雌=♀」を利用するようになっていき、次第にそれは植物学だけではなく、動物学・人類学・遺伝学の世界にまで使われるようになっていったのでした。

 

 

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3. ♂♀が意味するもの

現代の植物学ではリンネのやり方は廃れ、単に雄を四角で、雌を丸で現すようになっています。

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これを発明したのはニューヨークの医師ピルニー・アールという人物。彼は1845年に書いた色覚異常を説明するための論文の中で、初めて男性を四角、女性を丸で表現しました。

 なぜ彼はあえて昔からのやり方を捨ててまでこうしたかはよく分かっていません。

イギリスの王立協会会員でロンドンの医師エドワード・ネッテルシップに当時の印刷機だと「♂や♀は印刷できない」と言われたから、という説があります。

いずれにしても、♂や♀よりは四角と丸のほうが簡単に書けるし効率的ですね。

 

アカデミズムの世界では駆逐されてしまいましたが、「♂=雄=男性」「♀=雌=女性」の記号は広く普及しています。

犬や猫のペットの性別を表すときはよく使われてますね。「ポチ 2歳 ♂」みたいな感じで。

その変わり人間にはほとんど用いません。「近藤部長 55歳 ♂」とか書いたら本気で怒られるに違いありません。

いつもは温厚で優しい近藤部長から、急に男性ホルモンが溢れ出してきたような印象を受けます。

♂♀には何というか、「抑制が効かない、少し劣った存在」のようなニュアンスがあるような気がします。

転じて、エネルギッシュで既成概念に囚われない、と解釈する人もいるかもしれません。つんく♂さんなんてきっとそうですね。

ピンクなお店や商品に♂♀の記号が使われているのは、一般的には進んで使う記号でないゆえに、抑圧された感情を表現するのにぴったりだからだと思うのですが、どうでしょうか。

 

 

 

まとめ

現在は♂♀は「あからさまな男女の区分」を表す記号になってしまってますが、リンネの当時は普通にオスとメスの区別をするだけで他意はなかったはずです。

それが後に四角と丸になってしまって、確かに簡易的ですが区別が若干曖昧というか、特徴がないものになってしまった気がします。

 これは全く根拠の無いぼくの憶測ですが、やっぱりどうしても♂の記号を見たら男性のアソコが連想され、嫌がられたのではないでしょうか。

 あともっと言うと、♂と♀を作った古代ギリシア人も絶対意識してたと思うんですよね。第1章で貼り付けた成り立ち図、納得できましたか?ぼくは納得できません。

火星と男性的な軍神マルスを表現するとき、やっぱり「誰が見ても男性っぽいデザインになるはずだと思うんですが。どうなんでしょうか。

 

 

参考サイト

"Sex symbols ancient and modern: their origins and iconography on the pedigree" the bmj

"THE ORIGIN OF THE MALE AND FEMALE SYMBOLS" Today I Found Out

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